次世代自動車について知る
あなたの街のEV・PHV

*H24年度調査内容を元に掲載

EV導入の背景

温暖化ガス排出枠の代金の一部を電気自動車で支払う契約を締結

九州と同じぐらいの広さの国土に136万人が暮らすエストニアは、バルト3国で最も北に位置する国。中世の街並みが残る首都タリンの旧市街は、世界文化遺産にも指定されている。旧ソ連からの独立後は観光産業のほか、IT(技術情報)先進国をめざして関連産業への振興策なども導入され、タリンは全世界で使われているインターネット電話「スカイプ」の開発拠点としても知られている。

2011年3月、エストニア政府から1000万トンの温暖化ガス排出枠を取得する契約を結んだ三菱商事は、「グリーン投資スキーム(GIS)」と呼ばれる仕組みを使い、割当排出量(AAU)の購入代金の一部として日本製のEV(三菱自動車製i-MiEV)を507台提供。435台は高齢者や障がいを持った方々の送迎など社会福祉目的でソーシャルワーカーが利用し、残りは中央省庁や地方の公共機関などで利用されている。2国間の相対取引による売買であるGISによって得た資金は、環境対策に活用することになっているが、本エストニアプロジェクトは、EVの提供という形で行われる世界初の試みであった。

国土面積が狭く長距離の移動が少ないエストニアは、先進的な実証実験を行うのにちょうどよい規模であり、これまでも国を挙げて”スマートコミュニティ化”を進めてきた。なかでも交通機関については2020年までにしようエネルギーの10%を再生可能エネルギーで賄うことを目標とした「ELMOプログラム」を推進中で、今回のEVの導入はそのプログラムの中心的な取り組みと位置づけられている。

三菱商事はEVの提供に合わせて、充電インフラとして日本が世界標準をめざす急速充電器規格「CHAdeMO(チャデモ)」をエストニア政府に推奨。排出枠売却によって得た資金で、2013年11月までに163基の同規格の急速充電器が整備されている。

EV・PHVの普及状況

2013年11月の普及台数は約700台。購入補助金制度も継続中

経済通信省が主管官庁となって進めているELMOプログラムでは、EV購入に際してメーカーや使用目的に関係なく一律50%(最大18000ユーロ)の補助金を支給している。それが奏功して2013年11月までに、エストニア国内には三菱商事からの507台を含む約700台のEVが導入されている。この購入補助金制度は2014年11月まで継続されており、経済通信省ではプログラム終了までに1000台のEV導入をめざしている。

エストニアの市場に売り出されているPHVの台数は、正式に確認されていないが、経済通信省によると今後PHVのニューモデルが投入されることで、市場動向にも動きが出てくるものと考えているという。

充電インフラの整備状況

「CHAdeMO(チャデモ)」方式の急速充電器を163基整備済み

エストニア政府ではELMOプログラム始動時から、EVの導入と充電インフラの整備を同時に進めるという基本方針を定め、これまでに163基の急速充電器を設置済みだ。冬には氷点下15度を下回る日も多いエストニアでは、暖房の使用による走行中の電欠は生命の危険につながりかねないため、国土の50?60㎞に1カ所を目安に急速充電器を設置する必要があったという。また、家庭での普通充電器設置に対しては、ELMOプログラムによって1000ユーロの補助金制度が設けられている。

急速充電器の利用は有料で、3つのカテゴリーに分けた「月会費」によって、「1回あたりの利用料」「充電量の上限」を設定。月会費が不要のカテゴリーでは1回あたり5ユーロ(充電量無制限)、月会費が10ユーロのカテゴリーでは同2.5ユーロ(同無制限)、月会費30ユーロのカテゴリーでは利用料は無料だが、充電量は月150kWhまでとなっている。

導入促進・普及啓発の取り組み

EVの使いやすさを知ってもらうためにカーシェアリングもスタート

国民にEVは安全で使いやすい自動車だということを知ってもらうために、エストニアでは様々な取り組みが進められている。具体的な啓蒙活動としては、2011年からテレビCMや雑誌広告を通じたEVの認知度アップを行っている他、ショッピングセンターなどで実際にEVに触れてもらうイベントなども全国で実施している。2013年7月からはタリンとタルトで、試験的にEVの「カーシェアリング」も開始した、またガソリンエンジンとの違いについて学べるように常時EVを展示し、市場などができる「デモセンター」もオープンさせている。

EVは、タリン市の中心部にある一部の駐車場に無料で駐車することが許可されており、EVを運転する利便性を上げている。

今後への展望

近隣諸国からの視察も増え、より一層のEV普及が期待される

GISの仕組みを使って供給された507台のEVには「データロガー」が搭載され、充電器録や電池使用量といった走行データをセンサーで計測・収集している・政府及び三菱自動車と提携しているタリン工科大学では、このデータを活用した車両走行データ分析を行っている。今後はこうしたデータを活用して、より一層のEV普及のための施策に改善を加えていく予定だという。EU(欧州連合)では2050年までにガソリンディーゼルエンジン車または従来型の燃料者の市街地への乗り入れを禁止しようという動きがあるが、そういう意味でも電気自動車の普及が非常に重要な役割を果たしのは間違いない。

「世界でいちばんEVの普及に対する補助を行っている国」を自認するエストニアは、リトアニア、フィンランド、スウェーデン、ノルウェー、ウクライナなど近隣諸国をはじめ、ちり、ポーランド、オーストラリアなど世界各国からの視察や取材も増えており、その取組は今後も世界中から注目されていくだろう。

利用者の視点

ソーシャルワーカーのトーマス・オラさんに聞く

高齢者や障がいを持った方たちの送迎や自宅訪問の足としてEVを毎日使っているが、i-MiEVは見た目の割に内部空間が広く、旧市街の狭い道でも取り回しが楽なのでとても使いやすい。発進加速もよく、車内がとても静かで話しやすいというのも長所だと感じている。

通常は施設内にある普通充電器で夜間に10時間ほど充電すれば120㎞近く走るので、1日の走行には問題ない。長距離移動する場合は急速充電器を利用しているが、急速充電は20分ほどの充電で80%程度まで戻る。冬場は暖房の使用などで走行距離が半分程度になってしまうため、早目の充電を心がけている。ただ、車載の充電器設置マップを使えば急速充電器がどこにあるかすぐにわかるので、これまで充電切れを起こしたという話は聞いたことがない。